ラダー (舵, rudder)

oar は櫂、ないしはオールで、 steering oar は操船オールと訳しています。これはオールを方向制御に使用するもので、一番初期のラダーです。なお、rudder を舵と訳す変になることがあるので、単にカナ表記しています。

ラダーは流体 (通常は空気あるいは水) を通り抜けて動く船, ボート, 潜水艦, ホバークラフト, 飛行船などの乗り物を操舵するために使用される基本制御面 (primary control surface) である。飛行機ではラダーは主にアドバース・ヨー (adverse yaw, 逆偏揺れ) と p ファクター (p-factor) を無効にするために使用され、航空機の向きを変更するために使用される基本制御ではない。ラダーは船体 (hull) あるいは機体 (fugelage) を通り過ぎる流体の向きを変えること ―― 従って、(左右の) 向き変更の動きを乗り物に与えること ―― で動作する。基本的な形式では、ラダーは乗り物の船尾, 尾部あるいは後部に取り付けた平坦な資材の平面あるいは薄板 (plane or sheet) である。しばしば、ラダーの形は流体力学の抵抗 (drag) を最小にする形にしている。単純な船では、舵柄 (tiller) ―― 本質的にレバーの腕 (lever arm) として作用する棒 (stick あるいは pole) ―― はラダーの頂上に取り付けられて、操舵手が回転することができる。大きな船舶では、ケーブル, 押し棒 (pushrods) あるいは油圧によって、ラダーは操舵輪 (steering wheels) に接続している。

一般にラダーは「船体の外に固定されたボートや船の操船装置の一部分」で、あらゆる形式のオール (oars), パドル (paddle) あるいはラダー (rudders) を意味している。もっと明確には、古代の船舶の操舵装置は設置場所に依存して、舷側ラダー (side-rudders)、船尾搭載ラダー (stern-mounted rudders) に分類できる。三番目の用語のオール (oar) は、どちらの意味にもなる。地中海の背景では、舷側ラダーは、もっと明確にクォーター・ラダー (quater-rudder, 1/4 ラダー) と呼ばれ、これは後の用語ではラダーが搭載されるもっと正確な位置を指定したからである。船尾搭載ラダーは、船の後ろの中央に一様に掛けられる。

何人かの人は操船オール (steering oar) をラダーに分類するが、他の人は古代エジプトとローマで使用された操船オールは真のラダーではなく、古代中国の漢王朝で使用された船尾搭載ラダーのみが真のラダーと定義している。操船オールは帆の処理に干渉する (長い大洋航海の旅行の可能性を制限する) が、これは狭く、急流の水上輸送小型船舶には適している ; ラダーは帆の処理を邪魔することがなく、操舵手の操作に多くのエネルギーが消費されないので、大洋航海の旅行に、より適切で AD 1 世紀の古代中国で始めて登場した。地中海で、古代フェニキア (BC 1550 年 - BC 300 年) による、ラダーなしの操船オールの使用に関して、レオ・ブロック (Leo Block) は次のように書いている (2003 年) :

単一の帆は船舶を風上の方向、あるいは風下の方向に向ける傾向があり、ラダーの操作は直進コースに進ませることが要求される。ラダーはまだ発明されていなかったので、操船オール (steering oar) はこの時に使用された。単一の帆であれば、操船オールの頻繁な動きが直線コースを操るのに必要である; これは船舶を遅くした、というのは操船オール (あるいはラダー) によるコース補正はブレーキとして機能するからである。前方に位置する第二の帆は調整して、主帆の向きを変える傾向を弱め、操船オールによるコース補正の必要性を最小限にする。これは帆の性能を随分向上することになる。

操船オールあるいは操船板 (steering board) はラダーの発明以前の船やそれ以外の船舶の方向制御のための大きすぎるオールあるいは板である。これは通常、大きな船の右舷側に取り付けてあるが、小さな船ではほとんど全く取り付けていない。

古代エジプト

操船用に留保したオールはメネスの時代 (BC 3100 年) より随分前にエジプトの大きな船に登場した。エジプト古王国 (BC 2686 年 - BC 2134 年) では、五本の操船オールが、客船の両側に見られる。舵柄 (tiller) は最初は操船オールの柄 (stock) を通り抜ける小さなピンであり、第五王朝 (BC 2504 年 - BC 2347 年) までたどることができる。舵柄と船尾の上向きの操船ポスト (steering post) の導入は、必要な操船オールの通常の数を各舷側で 1 に減らした。船尾に設置された単一の操船オール (steering oars) は当時の墓の幾つかの模型に見ることができ、とりわけエジプト中王国の最中に見ることができ、この時、墓のレリーフから、これはナイル川のナビゲーションで普通に使用されたことが示唆される。最初の文芸による参照はギリシャの歴史家ヘロドトス (BC 484 年 - BC 424 年) の作品に登場し、彼はエジプトに数ヶ月滞在した : 「彼らは 1 つラダーを作り、これはキールを突き抜ける」、ここは恐らくは「メンナの墓」(「Tomb of Menna」) に描写されているように) キールの末端の股である。

イランでは操船のために船の舷側に搭載されたオールは紀元前 3000 年から挿絵に記録され、そして実際のボートの痕跡さえある。

古代ローマ

ローマのナビゲーションはクォーター操船オール (quarter steering oar) を使用し、これは長期間地中海で絶え間ない改良と改善が実施され、ローマの時代までに古代の船は随分と大きくなった。操船オールの強さは、有効性, 適応性, そして単純性の組み合わせにある。ローマのクォーター操船オールの搭載システムは中世を通じて大抵はそのまま生き延びた。

AD 1 世紀の前半までに、船尾搭載の操船装置はまたローマの川と港湾の船で全く普通になった。これはレリーフと考古学的発見 (ツワマーダム (Zwammerdam), ウールデン (Woerden) 7) で証明されている。ハドリアヌスの時代の 1 つの墓の飾り板はオスティアの港のタグボートを示し、これには良好なテコを与えるための長い船尾搭載のオールがある。ボートにはすでにスプリットスル(spritsail、スプリットに張った帆) の造作があり、港の船に可動性を追加していた。船尾に搭載されている操船オール (steering oar) の更に証明済みのローマの使用には、牽引用のハシケ, ワインの大樽の輸送船などの色々な船の形式がある。ツワマーダム (Zwammerdam) の近くのライン川の河口で見つかった大きな川のハシケには船尾搭載の大きな操船装置の造作があった。新しい研究によると、先進的ネミ船 (Nemi ships) ―― 皇帝カリグラ (AD 37 年 - AD 41 年) の宮廷ハシケ ―― には長さ 14 m のラダーの造作があったかもしれない。

古代中国

船尾ポスト搭載のラダーの世界最古の既知の描写は、AD 1 世紀の漢王朝中国のジャンクの陶器のモデルに見ることができ、恐らくは西洋における登場より 1000 年早い。中国では操船オールの造作がある船のミニチュア模型は戦国時代 (BC 475 年頃 - BC 221 年頃) にさかのぼる。船尾ポスト搭載のラダーは AD 1 世紀頃に中国の船の模型に登場し始めた。しかしながら、中国はラダーを発明した後も長期間操船オールを使用し続けた。というのは操船オールは内陸の急流河川の旅行には実用的であったからである。中国の船尾搭載ラダー (duò 舵) の最古の既知の描写は 1 フィートのジャンクの陶器モデルに見ることができ、 AD 1 世紀漢王朝 (BC 202 年 - AD 220 年) のものである。これは 1958 年に広東省博物館と台湾の中央研究院 (Academia Sinica) により実施された考古学的発掘で広州市で発見された。数十年以内にラダーの造作がある漢王朝の船の他の幾つかの模型が考古学的発掘で見つかった。操船オールがないラダーの使用に関する最初の確固とした記述文献は 5 世紀のものである。

中国のラダーは木製の顎あるいはソケットで船体に取り付けられ、一方大きなものは、典型的にはロープの索具システムで上から吊り下げられ、持ち上げたり、水中に沈めることができた。又、多くのジャンクは「穴の開いたラダー」 (より良好なコントロールを可能にするためと推定) を組み込んでいた。中世の間の中国のジャンクの詳細な説明は中国への色々な旅行者 ―― 例えばモロッコ, タンジェのイブン・バットゥータ、イタリア, ベニスのマルコ・ポーロ ―― から知られている。後の中国の百科事典編集者である宋応星 (1587 年 - 1666 年) と 17 世紀のヨーロッパの旅行者であるルイ・ルコント (Louis Lecomte) はジャンクのデザインと、そのラダーの使用に関して熱意と称賛を込めて書いている。

ポール・ジョンストン (Paul Johnstone) とシーン・マックグレイル (Sean McGrail) が述べることによると、中国人は「中央, 垂直, そして軸方向」の船尾ポスト搭載のラダーを発明し、このようなラダーの一種は西洋で見られるピントル&ガジオン (pintle-and-gudgeon, ピントル=舵針, ガジオン=舵針の軸受け (金属円盤)) のラダーよりはおよそ 1000 年先んじていた。

古代インド

AD 1 世紀と 3 世紀の間の Chandraketugarh (西ベンガル) のハンコ (seal) は「海洋のインドラ」 (Jadadhisakra, Indra of the Ocean) と呼ばれる船の操船機械を描写し、海の船であることを示している。

中世近東

アラブの船も「船尾ポスト搭載ラダー」を使用した。彼らの船では「ラダーは二本の紐によって制御され、各々はラダーの刃に垂直な平面に垂直なラダーの頭部 (rudder head) に搭載された横木に取り付けられていた」。最初の証拠は 985 年に al-Muqaddasi により著された Ahsan al-Taqasim fi Marifat al-Aqalim (「地方分類の最良の分割」('The Best Divisions for the Classification of Regions')) にある :

船長は見張り台から海を注意深く眺める。岩が見つかると、彼は「右舷」あるいは「左舷」と叫ぶ。待機する 2 人の若者が叫びを繰り返す。相だ種は 2 本のロープを手に持ち、叫び声を聞くと、一本のロープか別の一本を右か左へ引っ張る。十分注意しないと、船は岩に当たり、難破する。

中世ヨーロッパ

船の舷側に搭載されたオールは、クォーター操船オール (quarter steering oars) に進化し、これはヨーロッパで古代から中世末まで使用された。船のサイズとフリーボード (freeboards, 乾玄) の高さが増えると、クォーター操船オール (quater steering oars) は不格好になり、もっと頑丈なピントル&ガジオン取り付け (pintle and gudgeon attachment) がついたラダーで置き換えられた。操船オールはヨーロッパでローマ時代以来、広範囲の船舶 ―― 地中海の軽量戦闘ガレー船を含む ―― に見出されるが、ピントル&ガジオン・ラダー (pintle-and-gudgeon rudder) の最古の既知の描写は 1180 年頃のゼデルヘム (Zedelgen) とウインチェスター (Winchester) の教会の彫刻に見出される。

初期のラダーはラダーポスト (rudderpost) や滑車装置を経由して船尾に搭載されたが、鉄の蝶番により船尾ポストの全長にラダーを恒久的に取り付けることが可能となった。大航海時代以後、ピントル&ガジオン・ラダー (pintle-and-gudgeon rudder) を備えたヨーロッパの船は 7 つの海の全てを成功裏に航行した。

歴史家のジョゼフ・ニーダムの考えによると船尾搭載のラダーは中世の間に中国からヨーロッパとイスラム世界に伝達した。

現代のラダー

船舶ラダーは船外か船内のいずれかである。船外のラダーは船尾あるいは (船尾の) 横木に吊り下げられている。船内のラダーはキール (keel) やスケッグ (skeg) から吊り下げられ、従って、船体の下に完全に沈み、船体から甲板まで (しばしば操船室まで) 通り抜けるラダー・ポスト (rudder post) により操船メカニズムに接続されている。船内キールの吊り下げラダー (これは完全キールの船尾後端の延長) は沿岸航行で伝統的に被害に最も抵抗するラダーと思われている。より速い処理特性を持つより良好な性能は、より小さなフィン・キール (fin keel) を持つボートのスケッグ・ハング・ラダー ( skeg hung rudders) により提供することができる。

ラダーポストとマストの配置はケッチ (ketch) とヨール (yawl) の違いを定義する。というのは、これらの 2 本マストの船は類似しているからである。ヨール (yawl) はミズンマストがラダーポストより船尾にあるものとして定義され、ケッチ (ketche) はミズンマストがラダーポストの前方にあるものとして定義される。

小さなボートのラダーは多かれ少なかれ、船体の縦方向の軸に垂直に操作でき、「更に強く」 ("hard over") 押せば効果的なブレーキになる。しかしながら、「更に強く」「右舷に強く」 ("hard to starboard") などの用語は、より大きな船の最大回転を意味する。トランソム (船尾の横材) に吊るされたラダー、あるいは船尾末に搭載されたフィン・ラダー (fin rudder) は、もっと前方に搭載されたキールに吊るすラダーより大きなモーメントとより速い回転を生成する。より小さな船舶のラダーは、軸木 (rudder stock) に取り付けた舵柄で操作でき、軸木は舵板 (rudder foil) の固定場所でもある。舵柄 (tiller) の長さが操舵装置 (helm) の動きを邪魔するような船舶はゴムの自在継手 (rubber universal joint) で分離して、舵柄が付いている部分は舵柄拡張 (tiller extension) と呼ばれる。舵柄は調節可能な伸縮自在 (telescopic) な捻じれロック拡張 (twist locking extension) により拡張できる。

円筒タイプのラダー (barrel type rudder) もあり、これでは、船のスクリューは囲い込まれ、操船のために回転 (swivel) できる。デザイナーの主張では、この形式のラダーは小船舶の速い操船に対する解答である。

(総トン数が 1 万トン以上の) 大きな船にはラダーの反転時間 (turnover time) に必要条件がある。これに応じるために、高いトルクのラダー制御が採用される。かって普通に使用されたシステムの一つに水圧ラム形式の操船装置 (ram type steering gear) がある。これは 4 台の水圧ラム (大きな水圧シリンダー内のピストン) を使用して、ラダーの回転軸を回転し、次にラダーを回転する。

航空機で、ラダーは、ラダーのようなエレベーター (これは水平尾翼 (slab elevator) でなければ、通常水平な後部構造に付属) 及び (翼に付属する) 補助翼 (aileron) と共に、 3 つある方向制御面の 1 つである。エレベーターと補助翼は上昇・下降 (pitch) と横揺れ (roll) を制御する。ラダーは通常フィン (fin) (すなわち垂直スタビライザー (vertical stabilier)) に付属し、フィンによりパイロットは垂直軸の周りのヨ― (yaw) (機首が指し示す水平方向の変化) を制御する。

船と違い、補助翼とラダー制御を同時に使用して飛行機の向きを変える。補助翼は横揺れ (roll) を与え、ラダーはヨー (yaw)を与え、アドバース・ヨー (adverse yaw, 逆偏揺れ) と呼ばれる現象も補償する。ラダーのみでも、従来の固定翼の飛行機の向きを変えるが、補助翼 (aileron) の併用よりもずっと遅い。時々、操縦士はラダーと補助翼を意図的に逆方向に操作する、この操作はスリップ (slip) あるいはサイドスリップ (sideslip) と呼ばれる。これをするのは、横風に打ち勝ち、機体を滑走路の向きにするためで、あるいは抵抗 (drag) を増やすことで高度を下げるためで、あるいはその両方を実施するためである。

ヨー (yaw) 制御のための別のテクニックは、無尾翼機 (tailless aircraft) と全翼機 (flying wing) に使用され、翼の外側部分に分割補助翼 (split ailerons) のような 1 つ以上の抵抗 (drag) を作る表面を作る。この表面の 1 つの操作で、翼に抵抗 (drag) を作り、飛行機の左右の向きを変える (yaw)。これらの表面はしばしばドラッグ・ラダー (drag rudders) と呼ばれる。


現代の船のラダー (スクリューの後の背の高い長方形)	RMS オリンピックのラダーが回転


後漢 (AD 25 年 - AD 220 年) の陶器船、河川や海洋の使用に適切、舳先に錨があり、船尾にラダーが付属。屋根, 窓, 扉がついた部屋と小さな船乗り	宋 (960 年-1279 年) 初期の絹に描かれた絵二隻の貨物船に小さな船が随行。郭忠恕の絵手前に見える船の大きな船尾ラダーに着目


「舵針と受けの付いたラダー」, ハンザ同盟の旗艦アドラー・フォン・リューベック (Adler von Lübeck) (1567 年-1581 年) 当時, 世界最大の船	船のラダーがオーク材に彫刻、15 C 頃。デヴォン (Devon) のバー・フェラーズ (Bere Ferrers) 教会。 Cheyne 家と Willoughby 家の紋章


ラダー使用により起きる動き	ラダーは操縦桿の底部後方のラダー・ペダルで制御。ボーイング 727 のコックピットの写真