ポン・ダエル (Pont d'Aël)

原文を書いている人は英語を母国語にしていないようで、少し変な書き方をしています。例えば、原文では水路のことをラインとかパイプラインと言っており、これを常にパイプラインと訳しました。しかしパイプによる水路の事ではありません。多分灌漑運河と呼ぶほうが適切ですが、必ずしも灌漑のみを目的としたわけではないのでパイプラインと呼んでいるのではないかと思われます。

ポン・ダエル (Pont d'Aël) はローマの水道 (aqueduct) で、北イタリア、アオスタ峡谷 (Aosta Valley = ヴァッレ・ダオスタ) のアイマヴィル・コミューン (comune of Aymavilles) の同名 (ポン・ダエル) の村にある。これは BC 3 年に建設され、その目的は灌漑と新たに設立されたコロニー (colony) であるアウグスタ・プラエトリア (Augusta Praetoria) -- 現在はアオスタ (Aosta) と呼ばれる -- に水を供給するためであった。水はアオスタ峡谷の谷底の上方 66 m で近くの谷を、洗練したシステムで通り抜けている。水道は全長が 6 km である。この異常な位置に付け加え、建設 -- これは元々 3 階建ての構造と思われる -- にはもっとユニークな造作があり、例えば、水面より下の制御回廊 (control corridor) があり、更には、明示的な私的資金があった。今は、水道 (aqueduct) の水路 (water channel) は公的な歩行トレイル (trail) の役目をしている。

ポン・ダエル (Pont d'Aël) の他に、アオスタ峡谷には別のローマの橋が未だに無傷である：　同名の村 (ポン・サン・マルタン) にあるポン・サン・マルタン (Pont-Saint-Martin) とアオスタ (Aosta) のポン・ド・ピエール (Pont de Pierre) である。

橋はアオスタ (Aosta) の西 8 km にあるコーニュ峡谷 (Cogne Valley) の入り口の横にあるポン・ダエル村 (Pont d'Aël) で、グランド・エイヴィア川 (Grand Eyvia river) を横断した。 Pingone は 1550 年にスケッチと共に最初の説明を記録した。更にはイラストが Baron de Malzen により 1826 年に、そして 1860 年には Aubert により寄稿され、これはすでに現在の形で橋を見せていた。 Barocelli は 1930 年に橋の東端の発掘をして、1864 年の測定に追加した。

完全な調査と記録は 1996 年にマティアス・デリング (Mathias Döring) により始めて実施された。ここで、橋は以前から想定されたように鉄鉱石の輸送で使用されたことが発見されたが、アウグスタ・プラエトリア・サラッソルム (Augusta Praetoria Salassorum、現代のアオスタ) の成長するコロニーに属し、農地の灌漑用のパイプラインとコーニュ (Congne) の鉄鉱石の洗浄場 (washery) として使用されたことが発見された。これがアウグスタ・プラエトリア (Augusta Praetoria) の水源であるという考えは除外された、というのは町自身は近くのバルティア川 (Burthier) から給水されたからである。にもかかわらず、水は主要な経済機能に付け加え、地元の飲料水の需要に応じるために使用されたかもしれない。

長さ 6 km のパイプラインの一方の端は、西アオスタの 200 ヘクタールの農場に開いており、これは主要河川のドーラ・バルティア川 (Dor Baltea) の上方 50～150 m にあり、近くの谷からの勾配のあるパイプラインを使用した。途中で、水は鉱石の洗浄に回され、恐らくはアイマヴィル村 (Aymavilles) の近くにあった。コーニュ (Cogne) の急な岩の面に沿ったパイプラインを敷設する技術的な困難さはローマの技術者により、重力パイプラインで解決された。グランド・エイヴィア (Grand Eyvia) からの水は、ポン・ダエル (Pont d'Aël) の上流 2.9 km で取り入れ、 1 マイル当たり 6.6 の平均勾配の開放水路で、コーニュ谷 (Cogne valley) を急なスロープで下方に向かう。硬い岩の面により、トンネルあるいはカナート (qanat) が使用された。幅が 1.20 m (3.9 フィート) のパイプラインは岩がちのスロープで半開放通路 (half-gallery) として掘削され、 3 m までの高さの欄干が炉床の谷側を形成した。[訳注：トンネルの谷側が外に開放していた、これが半開放通路の意味することか ?] この方法の利点は通常のトンネル工程と違い、工事は何か所からでも開始できる、というのはこれは簡単に (外からトンネルが) 見えるからである。この意味する点は建設時間を随分短縮できることである。このような半開放通路はローマの工学ではとりわけ荒れた地形でしか、めったにお目にかかれない。例えばトルコのシデ (Side) の水のパイプラインがある。

より平坦な地帯では、彼らは幅が 2 - 4 m の段を作り、ここを長方形のレンガ運河で、タイルの覆いがあるもの (パイプライン) を走らせた。全体では、このパイプラインは 2.25 km スロープを下って横断し、次に岩がちな通り道をポン・ダエル (Pont d'Aël) まで 0.6 km を下った。橋の下にある別のパイプラインは建設の理由と農業の使用により調査できなかった。末端は恐らく今日ではアイマヴィル村 (Aymaville) と呼ばれる上記の灌漑地帯にある。

長さ 60.46 m (198.4 フィート)、幅 2.26 m (7.4 フィート) の橋の場所は、グランド・エイヴィア川 (Grand Eyvia) の長さ 4 km (2.5 マイル)、150 m (490 フィート) までの深さの谷を横断できる唯一の点である。唯一のアーチが峡谷を橋渡し、ここでは幅がたった 12 m であるが、深さは 66 m で、スパンは 14.24 m である。橋のアーチはキー・ストーンが唯一つから構成されている。橋はかっては恐らく 3 階建てで、この下層フロアーには、 50.35 m (165.2 フィート) の長さの回廊があり、これは古代に上に重なるパイプラインが密であることの確認をする役割があった。この高さ 3.88 m の制御回廊 (control corridor) の両側には、2 列の小さな窓があり、ここから下方のフロアと上方の天井を照らして、橋の管理人が直ちに漏水に気づくことができた、漏水は凍結で石細工に被害を与える恐れがあったからである。デリング (Döring) はほぼ疑う余地がない程度に今日トレイル (trail) が走っている場所に古代の水道 (aqueduct) があったことを示すことができた。この根拠は高度と保存されている壁の遺構からであり、更には橋の西側に続くトンネルの理由からである。これは高さ 1.90 m で、幅 1.0 m である。当時の 3 階は恐らく (現在の) 開放歩行路で、これにより、建物の全高は 22.15 m であった。

    IMP CAESARE AVGVSTO XIII COS DESIG
    C AVILLIVS C F CAIMVS PATAVINVS
    PRIVATVM

省略しない記述:
    Imperatore Caesare Augusto XIII consule designato
    Gaius Avillius Gaii filius Caimus Patavinus
    privatum

翻訳:
カエサル・アウグストゥス皇帝 (Caesare Augustus) が 13 番目の執政官であった時
Caius の子息のパドゥアの Caius Avillius Caimus [がこの橋を作った]


ポン・ダエル	イタリアにおける位置