PS コメット (PS Comet)

蒸気外輪ボート PS コメット はヘリンズバラ (Helensburgh) のホテルと浴場の所有者であるヘンリー・ベル (Henry Bell) のために建造され、 1812 年 8 月 15 日にクライド川でグラスゴーとグリーノック (Greenock) の間で乗客輸送を始めた。これはヨーロッパで最初に商用的に成功した蒸気ボート輸送であった。

ベルは蒸気駆動のボートに興味を持ち、ロバート・フルトンと文通し、シャーロット・ダンダス から学んだ。 1811 年末に、彼はポート・グラスゴーの造船業者であるジョン・ウッド会社 (John Wood and Company) のジョン・ウッドとチャールズ・ウッドに外輪蒸気ボートを建造してもらい、 1811 年の「大彗星」にちなんで コメット (彗星、Commet) と名付けた。この 28 トンのボートは長さが 45 フィート (14 m) で幅が 10 フィート (3.0 m) であった。これは両側にそれぞれ二基の外輪を備え、3 馬力と見積もられる (おそらく 4 馬力の) エンジンで駆動した：後に二基の外輪は一基の外輪と交換した。二基のエンジンはグラスゴーのジョン・ロバートソン (John Robertson) が製造し、ボイラーはグラスゴーのカムラチー (Camlachie) のディビッド・ネイピア (David Napier) が製造した。ある話によると、これらは実験的な小さな蒸気エンジンから進化したもので、このエンジンはヘリンズバラの浴場に海水を汲み上げるために設置したものであった。煙突は高くて、細く、帆桁が付いていて、追い風の場合に帆を張った。船尾の小さな船室に木の (複数の) イスとテーブルがあった。

1812 年の 8 月にベルは地方紙の「グリーノック・アドバタイザー」に広告を出した：

グラスゴー、グリーノック、ヘリンズバラを結ぶ乗客専用の蒸気ボート コメット

定期船 (subscriber) は資金をかけて、素敵な船に仕立て、クライド川でグラスゴーから空気、風、蒸気の力により、定期輸送をすることになった。ブルーミーロー【訳注：グラスゴーの波止場】からの出発は、火曜日、木曜日、土曜日の昼頃、あるいはその後の潮の状態の良い時、グリーノックからの出発は月曜日、水曜日、金曜日の朝で、潮の状態が良い時

料金は「一等船室で 4 シリング、二等船室で 3 シリング」であった。

1812 年に コメット はポート・グラスゴーから乗客輸送を始め、 21 マイル上流のグラスゴーのブルーミーローに至り、次にグラスゴーから 24 マイル下流のグリーノックに至り、向かい風で時速 4 マイルであった。

この乗客輸送の成功により、競争が触発 (inspire) され、次の乗客輸送が 4 年以内に登場した：クライド湾、【リアス式海岸の】入り江に至るものでは、ラーグス (Largs)、ロスシー (Rothesay)、キャンベルタウン (Campbeltown)、インヴェラリー (Inveraray) があった。そして コメット よりも新参の蒸気ボートの方がはるかにまさっていた。ベルはフォース湾で輸送を短期間試みた。

ベルは コメット を長くし、幅を広げた。 1819 年の 9 月から、オーバン (Oban) から (クリナン運河を経由して) フォート・ウィリアムに至る乗客輸送をした。 1820 年の 12 月 13 日に コメット はオーバンの近くのクレイグニッシュ・ポイント (Craignish Point) で強い流れにより、難破し、この時ベルが乗船していた。人名が失われることはなかった。 (この時の) エンジンの 1 つはグリーノック醸造所で稼働を終え、現在ではロンドンのサイエンス・ミュージアムにある。

ベルは別の コメット 2 世 を建造したが、1825 年 10 月 21 日に、この船はスコットランドのゴウロック (Gourock) のケンポック・ポイント (Kempock Point) の沖で蒸気ボートのエア (Ayr) と衝突した：

エアは我々の知る所によれば、船首の照明は点灯していなかったが、 コメット には照明がなかった。しかしながら、夜は明るく、明らかにどちらにも見張りがおらず、もっとも非難すべき怠慢がどちらにもあった。事故が起きた時に コメット の甲板にいた者はダンスに興じていたと言われている。下の甲板にいた乗客は上機嫌で、気晴らしの話をしたり、聞いたりしていた。最初の一撃が コメット の外輪をヒットした。船長と乗客は直ちに甲板に上り、何が悪くなったのかを知ろうとした。 -- この時次の致命的な一撃が衝撃的に起き、 コメット が浸水し、2 分以内に舳先から真っ先に沈没した。これが起きた時にエアは救助せずに、外輪の回転をバックにして、向きを変えて、グリーノックに向けて立ち去り、 (コメット の) 乗客と乗組員を運命にまかせた。

-- シドニー・ギャゼット及びニューサウス・ウェールズ・アドバタイザー、1826 年 3 月 25 日、3 頁

コメット 2 世 は非常に早く沈没し、乗船していた80 名程度の乗客のうち 60 名が死亡し、この中にはロバート・バーン (Robert Burn) の義理の子息であるジョン・アンダーソンが含まれていた。溺れて死んだ人には 33 連隊のキャプテン (陸軍大尉) である結婚したばかりのウィームス・アースキン・サザーランド (Wemyss Erskine Sutherland) もおり、ミュアタウン (Muirtown) の Sarah née Duff もいた。二隻目を失ったベルは蒸気航行の仕事を見捨てた。

コメットのレプリカは造船所の見習いが作り、今ではポート・グラスゴーで顕著に立っている。