シルバー橋 (Silver Bridge)

シルバー橋は 1928 年建設のアイバー鎖の吊り橋で、アルミ塗装の色から命名された。橋はオハイオ川を越えて US ルート 35 を通し、ウェスト・バージニア州ポイント・プレザントとオハイオ州ギャリポリス (Gallipolis) を接続していた。

1967 年 12 月 15 日に、シルバー橋はラッシュ時の交通で満杯になった時に崩壊し、46 名が死亡した。犠牲者の 2 名は見つかることがなかった。残骸の調査から、事故の原因は吊り鎖の 1 本のアイバーの破損によっており、これは深さ 0.1 インチ (2.5 mm) の小さな欠陥によっていた。分析により、橋は元々デザインされたよりも、ずっと重い荷重を支え、ほとんど保守されていなかった。

崩壊した橋はシルバー記念橋で置き換えられ、これは 1969 年に完成した。

シルバー橋の建設時に、アイバー橋は 100 年ほど建設され続けていた。このような橋は、通常は冗長なアイバーの接続で建設され、4 列から 6 列のアイバーを使用し、時にはこのような鎖を平行に使用した。 1 つの実例がクリフトン吊り橋に見ることができ、これはイザムバード・キングダム・ブルネルによりデザインされた。このアイバー鎖は 2 次元的に冗長である。これはなお使用されている初期の吊り橋である。類似のデザインの他の橋にはメナイ海峡を越える初期の道路橋 (メナイ吊り橋) があり、これは 1826 年にトーマス・テルフォードによりデザインされた；ブダペストのセーチェニ鎖橋 (Széchenyi Chain Bridge) は 1839 年 - 1849 年に建設され、退却するドイツ軍により第二次世界大戦末期の 1945 年に破壊され、 1949 年に冗長な鎖と支えで全く同一に再建された；及びピッツバーグで類似なデザインをした自定式吊り橋 (self-anchored suspension bridge) の三姉妹橋 (Three Sisters) がある。

シルバー橋のアイバーは冗長ではない。というのは接続は 2 本の高強度鋼 (一般的なマイルド鋼の 2 倍以上の張力 (tensile strength) を持つ) のアイバーから構成され、冗長性がある場合に普通にされるように、そこそこの材質強度を持つ薄いアイバーを、より合わせた分厚い積み重ねではなかったのである。 2 本のアイバーしかなかったため、1 本が破壊されると第 2 のアイバーに余剰の荷重が加わり、全体が破壊される。-- これはもっと多くのアイバーを使用すれば起きることがない。冗長性の低い鎖はデザインの要求に応じて設計できるが、安全性は完全に高品質の製造工程、組立、及び保守に依存する。

比較をするとブルックリン橋はワイヤー・ケーブルの吊り橋で、6 倍の過剰な強度でデザインされた。ワイヤー・ケーブルは極端に高レベルの冗長性があり、1 本のワイヤーの撚り糸 (strand) が切断されても気が付くことはない。建設中に不合格な鋼ワイヤー (rejected steel wire) が使用されたことが発見された。不合格の鋼ワイヤーがすでにケーブルに使用されているのを補償するために、ケーブルごとに更に 150 本の良好な鋼が追加され、全部で 5,434 本の冗長な撚り糸 (strand) となった。デザイナーの子息の決断は安全率を減少したかもしれないが、十分すぎるものであった。

塔は「ロッカー」塔 (rocker tower) (ヨーロッパで普通のデザイン) であり、これにより橋は支持塔のわずかな傾きにより色々な動的荷重に応える。支持塔は路面レベルで分離し、潤滑されたサドルを越えて、吊り鎖を通したり、塔に力を加えて曲げることがない。塔には両側に支えのための鎖が必要で、いずれの側の接続、あるいは 3 スパンの鎖のいずれが崩壊しても、橋全体が完全に崩壊する。

橋が建設された時には、典型的な家庭の自動車はフォート・モデル T で、重量がおよそ 1500 ポンド (680 kg) であった。トラックの許可された総重量はおよそ 20,000 ポンド (9 トン) であった。これと比較すると、崩壊の時には典型的な家庭の自動車はおよそ 4000 ポンド (1,800 kg) で大きなトラックの制限は 60,000 ポンド (27 トン) であり、あるいは、数珠つなぎの交通渋滞はずっと普通に起き、一日に数回起き、一週間に 5 日起き、これにより橋の要素にもっとストレスが加わった。

橋の崩壊はアイバー 330 と呼ばれる単一接続の欠陥が原因で、これはオハイオ塔の頂上のすぐ下の最初の接続で、オハイオ補助鎖の北にあった。小さなひび割れが軸受けの擦過摩耗 (フレッティング摩耗, fretting wear) が形成され、内部的な腐食により成長した。これは応力腐食割れ (stress corrosion cracking) と呼ばれる問題である。ひび割れは危機的になった時は 0.1 インチ (2.5 mm) の深さしかなく、もろく壊れた。ひび割れの成長は恐らく製造時期に作られたアイバーの残留応力 (residual stress) により悪化した。橋、そして橋の上の人々は橋が崩壊した時に、不十分な冗長性の犠牲者であった。

アイバーの下側が壊れた時、すべての荷重がアイバーの反対側にまわり、アイバーが延性過負荷 (ductile overload) により壊れた。継ぎ目は 3 つのアイバーによってのみまとめられ、別のアイバーが軸受けの中心のピンから外れ、鎖は完全に切断された。全構造の崩壊は避けようがなかった。というのは吊り橋の全ての部分は互いに平衡していたからである。あとで目撃者が評価したことでは全ての橋が崩壊するのにおよそ 1 分かかっただけであった。

接続の被害は橋の点検の最中に気が付くことは困難であった。

建設に先立つ点検では小さなひび割れは気が付くことがなかったであろう ..... ひび割れを検知する唯一の方法はアイバーを分解することであった。当時、点検に使用された技術ではこのようなひび割れを検知することはできなかったであろう。

崩壊により、より古い橋に関してもっと注意されることになり、点検実施要項が強化され、多くの橋が間もなく交換された。類似のデザインで建設されたのは二基の橋しかなかった。一致はウェスト・バージニア州のセント・メアリーズ (St. Marys) の上流のもので、 (もう一基は) ブラジル、フロリアノポリス (Florianópolis) の随分と長いエルシーリオ・ルース橋 (Hercilio Luz Bridge ) であった。セント・メアリーズ橋は直ちに閉鎖されて 1971 年に州により取り壊された。小さなトラス橋が川の中の島へのアクセスを可能にした。ハイ・カーペンター記念橋 (Hi Carpenter Memorial Bridge) が後に取り壊された橋の交換用に建設された。エルシーリオ・ルース橋は 1991 年に至るまで現役のままで、ウェスト・バージニア橋よりも高い安全率で建設されていたため、フロリアノポリスでまだ健在である。 1983 年にコネチカット州グリニッジのミアナス川橋 (Mianus River Bridge) が崩壊し、 3 名のドライバーが死亡した。 I-35W ミシシッピ川橋の 2007 年の大惨事により 13 名が死亡した。 2009 年の 9 月初頭に、 San Francisco - Oakland Bay Bridge のアイバーの障害が定期検査で発見され、故障している要素を強化するための緊急の修理になった。

元々のシルバー橋の縮小モデルがポイント・プレザント河川博物館 (Point Pleasant River Museum) で見ることができる。橋の資料が公的に見ることができるように保存されている。博物館の下の階では、元々の橋のアイバーの組立部品を展示している。

崩壊して死亡した 46 名の犠牲者を記念するために記念碑が設置された。

技術歴史家のヘンリー・ペトロスキー (Henry Petroski) は 2012 年の本「デザインを許す事」 (To Forgive Design) の中で、崩壊とそれに続いた調査を見直し、これが「どのような技術者にとっても訓戒の話」であることに気が付いた。調査が完全であったため、大惨事の原因は正確にそして疑いがなく、「検査を全く不可能にし、惨事を避けがたいものにした不注意なデザイン」であった。「デザインが惨事の理由から責めることがあるとすれば、これがまさしくそうなっている」。

彼は橋のデザイナーを責めていない。デザイナー達はこの危険の多くを知らなかったからである。この代わりに彼は未来を向いている。「もしもシルバー橋の惨事に関して、積極的なことがあるとすれば」と結論し、次のように続けている：「思い起こさせることは技術者に最大の注意を払って前進することであり、分からないことがあり得、ほんのわずかなデザインの変更でさえ、結果が変わることを想起させ続けているのである」。


1928 年完成時のシルバー橋	崩壊したシルバー橋オハイオ州側から見た光景