グレート・アパラチア峡谷 (Great Appalachian Valley)

但し、地形/気候の部分の表 (オールバニーとノックスビルの気温など) の部分は省略します。数値が並んでいるだけです。

英語の Valley (峡谷) は訳しにくく、これは前後関係で流域と訳すこともあります。その理由は、一般的な峡谷は、断面が V 字型をしていることがなく、U 字型をしていることが多く、流域がとても広いのが普通だからです。日本の峡谷は英語の gorge に近い。ところが、ここで問題にしている「グレート・アパラチア峡谷」は一つの川の流域ではありません。そのため適切な訳語がなく、この場合の「峡谷」が非常に広々としたもの (日本の平野に近い) であると、理解を変えてください。

グレート・アパラチア峡谷 (Great Appalachian Valley) は グレート・バレー (Great Valley、大峡谷) あるいは グレート・バレー地区 (Great Valley Region) とも呼ばれ、北米東部の重要な地形の造作の 1 つである。これは巨大な窪み (trough) ―― 一連の峡谷低地が含まれ ―― でアパラチア山脈システムの中央の造作である。窪み (trough) は北のケベック州から、南のアラバマ州までのおよそ 1,200 マイル (1,900 km) に広がり、有史以前から重要な南北移動ルートであった。

グレート・バレー (Great Valley) はリッジ&バレー自然地理学的プロビンス (Ridge and Valley physiographic province) の東の端をマークしている。グレート・バレーの地方的な名称があり、例えばシェナンドーア峡谷 (Shenandoah Valley, /ˌʃɛnənˈdoʊə/) がある。大きな観点からはグレート・バレーは北部区間 (northern section) と南部区間 (southern section) に分割できる。

一連の山脈がグレート・バレーの北半分の両側を囲んでいる。東に向かっては、あるいは海岸に向かっては、これらは北から南に、グリーン山脈 (Green Mountains) ( バーモント州 (Vermont))；タコニック山脈 (Taconic Mountains) (バーモント州、ニューヨーク州、マサチューセッツ州、コネチカット州)；レディング・プロング (Reading Prong) (これが含むのはニューヨーク - ニュージャージー・ハイランズ (New York - New Jersey Highlands)、ハドソン・ハイランズ (Hudson Highlands) とも呼ばれる), シューンマンク・マウンテン (Schunemunk Mountain, [訳注ニューヨーク州]), そしてラマポ山脈 (Ramapo Mountains, [訳注ニュージャージー州]) である。ペンシルバニア州のハリスバーグ (Harrisburg) より向こうにサウス・マウンテン (South Mountain) がある。レディング・プロング (Reading Prong) とハリスバーグ (Harrisburg) のサウス・マウンテン (South Mountain) の間には広いギャップがあり、これを通り抜けてサスケハナ川が流れ、グレート・バレーをペンシルバニア州南東のピードモント高原地域 (Piedmont region) に接続している。人によっては、このギャップがグレート・バレーの北部区間と南部区間の間の分割点と考えている。

訳注

Reading Prongによると　 "The Reading Prong is a physiographic subprovince of the New England Uplands section of the New England province of the Appalachian Highlands. The prong consists of mountains made up of crystalline metamorphic rock. " (レディング・プロングはアパラチア・ハイランズのニューイングランド・プロビンスのニューイングランド・アップランド・セクションの自然地理学的サブプロビンスである。) 米国の自然地理学的地域も参照。

西側あるいは大陸側には一連のもっと入り込めない山岳地帯がグレート・バレー北側の境界になっている。最北はアディロンダック山地 (Adirondack Mountains) で、カナダ楯状地 (Canadian Shield) の南の延長であり、これはシャンプレーン湖 (Lake Champlain) とジョージ湖 (Lake George) の岸に沿ってグレート・バレーに到達している。この南にはモホーク峡谷 (Mohawk Valley) とニューヨーク州オールバニー (Albany) の向こうに、キャッツキル山脈 (Catskill Mountains) ―― これはアレゲーニー高原 (Allgheny Plateau) の北東の終端 ―― が劇的なキャッツキル急斜面 (Catskill Escarpment) の形でグレート・バレーの境界になり、急斜面がハドソン川とハドソン峡谷の中間の水平区間を見下ろしている。キャッツキル山脈のすぐ南に、リッジ&バレー・アパラチア (Ridge-and-Valley Appalachians) の最初の「褶曲」 (folds) が連続的な尾根の形で谷の境界になっている。この尾根は色々な名称で呼ばれ、(南に向かって) ニューヨーク州ではシャワンガンク尾根 (Shawangunk Ridge、 /ˈʃɑːwəŋɡʌŋk/)、ニュージャージー州ではキッタティニー・マウンテン (Kittatinny Mountain、[訳注：尾根])、ペンシルバニア州ではブルー・マウンテン (Blue Moutain) と呼ばれる。この長い尾根は幾つかの狭い劇的なギャップで途切れ、ウィンド・ギャップ (wind gap)、ウォーター・ギャップ (water gap) と呼ばれている。これらに含まれるのはニュージャージー州のカルバーズ・ギャップ (Culver's Gap)；デラウェア川のウォーター・ギャップ (Water Gap)、これはデラウェア川がニュージャージー州とペンシルバニア州の間の境界に沿ってリーハイ峡谷の中に通過する場所；そしてペンシルバニア州の多くのギャップがあり、これに含まれるのがペンシルバニア・ウィンド・ギャップ (Pennsylvania Wind Gap); アレンタウン北 (Allentown) のリーハイ川ギャップ (Lehigh River Gap)、スクールキル川ギャップ (Schuylkill River Gap)、スワタラ・ギャップ (Swatara Gap); そしてサスケハナ川ギャップ (Susquehanna River Gap) 等がある。

南部区間では、グレート・バレーは東側をブルーリッジ山脈 (Blue Ridge Mountains) で囲まれ、これは北のメリーランド州 (Maryland) とペンシルバニア州にはサウス・マウンテン (South Mountain) として延長する。南部区間のグレート・バレーの地方名に含まれるのは：メリーランド州のヘイガーズタウン峡谷 (Hagerstown Valley)、バージニア州とウェスト・バージニア州のウィンチェスター峡谷 (Winchester Valley) とシェナンドーア峡谷 (Shenandoah Valley)、バージニア州のジェームズ川 (James River) の上流峡谷 (upper valley)、ロアノーク峡谷 (Roanoke Valley)、そしてニュー・リバー峡谷 (New River Valley)、バージニア州とテネシー州のホルストン川峡谷 (Holston River Valley)、そしてバージニア州からテネシー州を通り抜けアラバマ州に至るイースト・テネシー川峡谷 (East Tennessee Valley) である。クーサ川峡谷 (Coosa River Valley) はしばしばグレート・バレーの最南端部分と考えられる。これらのグレート・バレーの南部区間は、時々 2 つの部分 ―― バージニア・バレー (Valley of Virginia) とテネシー・バレー (Tennessee Valley) ―― にグループ分けされる。

南グレート・バレー (southern Great Valley) は東側をブルー・リッジ自然地理学的プロビンス (Blue Ridge physiographic province) により囲まれ、このプロビンスに含まれるのは、北から南にかけて、ペンシルバニア州とメリーランド州のサウス・マウンテン (South Moutain)、バージニア州のブルーリッジ山脈 (Blue Ridge)、テネシー州のホルストン・マウンテン (Holston Mountain、[訳注：尾根])、テネシー州とノース・カロライナ州のウナカ山脈 (Unaka Range) とグレート・スモーキー山脈 (Great Smoky Mountains) である。これらの山脈の一つの重要なギャップはバージニア州のロアノーク (Roanoke) にある。バージニア州ブルーリッジ山脈 (Blue Ridge) にある注目すべき他のギャップはピードモント高原 (Piedmont region) とグレート・バレーを接続し、これに含まれるものにはソーントン・ギャップ (Thornton Gap)、スウィフト・ラン・ギャップ (Swift Run Gap)、そしてロックフィッシュ・ギャップ (Rockfish Gap) がある。

別の一連の山々が南グレート・バレーの西側を囲み、これに含まれるのは：ノース・マウンテン (North Mountain,[訳注：尾根]) とグレート・ノース・マウンテン (Great North Mountain,[訳注：尾根]), アレゲーニー・フロント (Allegheny Front), パウェル・マウンテン (Powell Mountain、[訳注：尾根]), カンバーランド山脈 (Cumberland Mountains), ウォールデン・リッジ (Walden Ridge、ウォールデン尾根), そしてカンバーランド高原 (Cumberland Plateau) である。カンバーランド・ギャップ (Cumperland Gap) はグレート・バレー地区 (Great Valley region) を西のケンタッキー州とテネシー州に接続している。

マサヌテン・マウンテン (Massanutten Mountain、[訳注：尾根]) はグレート・バレーのバージニア峡谷部分の真ん中にある。

グレート・バレーの気候は一般に、暖かいあるいは暑い夏で湿気が高い大陸性が北の 1/3 で、ペンシルバニア州より南は湿気が高い亜熱帯である。最初の表は温暖な部分のもので、第二の表はグレート・バレーの亜熱帯の部分である。

この谷を通り抜けるルートは最初はアメリカ原住民により使用された。植民地以前と植民地時代の初期には、グレート・バレー (Great Valley) を通り抜ける重要なインディアンの通り道は、グレート・インディアン・ウォーパス (Great Indian Warpath、大インディアン戦争道)、セネカ・トレイル (Seneca Trail) 等の色々の名前で呼ばれた。

グレート・バレーを西と東の土地に接続している色々なギャップはアメリカの歴史で重要な役割を演じた。東側ではペンシルバニア州南東の広いギャップはグレート・バレーの植民地化の重要なルートになった。 1730 年代までに、サウス・マウンテン (South Mountain) より西のペンシルバニア州のグレート・バレーはインディアンからの譲渡条約と買収後に、開拓に開放された。この地域は間断のない、ますます増える移民の流れを引き寄せ、「最良の貧乏人の国」 (the best poor man's country) と呼ばれた。やがて移民は究極的に完全にペンシルバニアのグレート・バレーを開拓し、急速に南方に移住・開拓し、バージニア州のシェナンドーア峡谷の中に至った。ペンシルバニア南東とシェナンドーア峡谷の間の全地域はブレッドバスケット (breadbasket、穀倉地帯) ―― アメリカで最も生産的な混合農業地区 (mixed farming region) (メイニグ (Meinig) 1986:134, [訳注：この文献は原文を参照のこと]) ―― として有名になった。フィラデルフィアから西の峡谷に至り、そして通り抜けて南に至る道路はひどく利用され、色々な名称で呼ばれ、例えば、グレート・ワゴン・ロード、フィラデルフィア・ワゴン・ロード、バレー・ロード等である。コネストーガ・ワゴンはフィラデルフィアとグレート・バレーの間の広い通路で 1725 年頃に開発された。コネストーガ・ワゴンは鉄道時代に至るまで、グレート・バレーを通り抜ける輸送用の主な車両になった。

ニュージャージー州サセックス・カウンティのカルバー湖 (Culver's Lake) の近くのカルバー・ギャップ (Culver Gap) はキッタティニー山 (Kittatiny Mountain) を通り抜ける重要なルートで、およそ 10,000 年前から現在に至るまで続いている。ギャップは山頂から 400 フィート (120 m) 以上も下にある。アメリカ原住民のレナペ族 (Lenape) はこのギャップを使用して、山の両側で狩りや、トレードをした。ペンシルバニアからの初期の開拓者はカルバー湖 (Culvers Lake) からブランチビル (Branchville) に至る水の落差を、幅広い種類の水力ミルに使用した。 (複数の) 有料道路はギャップを通り抜けるレナペ族 (Lenape) のトレイルのルート (複数) をたどった。

1750 年までに、グレート・バレーはシェナンドーア峡谷の南端まで十分に開拓された。移民はフィラデルフィア地区から南方へ、グレート・バレーを通り抜けて、シェナンドーアを越えて、現代のバージニア州のロアノークの近くまで移動し続けた。ロアノークの近くのブルーリッジ山脈 (Blue Ridge) には広いギャップがある。グレート・ワゴン・ロードの支道がここで始まり、ギャップを東に通り抜けて、ノース・カロライナとサウス・カロライナのピードモント高原 (Piedmont region) に入った。この道路はカロライナ・ロードと呼ばれた。 1750 年代に、南に向かい、峡谷を通り抜けて、カロライナのピードモント高原 (Carolina Piedmont) に移動する移民の流れが洪水のように増えた。当時、カロライナのピードモント高原は最良の土地少々を、最低の価格で提供した。一連の町が登場し、これに含まれたのは：ノース・カロライナのソールズベリー (Salisbury)、セーレム (Salem)、シャーロット (Charlotte) であった。アメリカ独立戦争の前の数 10 年間に、カロライナ (Carolina) の内陸のピードモント高原 (Piedmont "upcountry") は最近の移民によりすばやく開拓され、大半はグレート・バレーを経由して、北から南へ移住した。これらの移民の多くはスコットランド系アイルランド人 (Scots-Irish)、ラインラント＝プファルツ州 (Rhineland-Palainate area) から来たドイツ人、そしてモラヴィア教徒であった。この内陸 ("upcountry") の人口はすぐに、もっと古く、もっと確立した大西洋岸の低地帯 ("low country") の人口を越え、 18 世紀末にノースカロライナ・サウスカロライナ (Carolinas) に深刻な地理的・政治的な緊張を引き起こした。 (メイニグ (Meinig)、1986:291-293)。

西側で、カンバーランド・ギャップはグレート・バレー南部 (southern Great Valley) から西のケンタッキーとテネシーに至る主要な移民ルートになった。北部では、モホーク峡谷 (Mohawk Valley) が西への拡張の主要ルートとなり、とりわけエリー運河の建設の後でこうなった。この運河は東のニューヨーク市をアメリカ中西部 (Midwest) の五大湖地域に接続し、グレート・バレーのハドソン川とモホーク峡谷 (Mohawk Valley) のギャップを経由した。

グレート・バレー、とりわけシェナンドーア峡谷は南北戦争の最中に重要な役割を演じた。、これに含まれるのはブルー・リッジ・ギャップ (Blue Ridge gap)、近くのピードモント地区 (Piedmont area)、そしてペンシルバニア州ゲティスバーグ (Gettysburg) への北方の延長で、ここでは南北戦争で、もっとも血まみれで、もっとも影響のある戦闘が 1863 年 7 月 1 日から 3 日にかけて、ゲティスバーグの戦い (Battle of Gettysburg) で起きた。ゲティスバーグの戦いで 50,000 名以上の犠牲者がいたが、ジョージ・ミード (George Meade) 少将将軍の命令下の北軍が、ロバート・E・リー (Robert E. Lee) の南軍に対して勝利して、戦争が北軍に有利になった。

今日では、グレート・バレー南部を占有する主要な幹線道は：

バレー北部 (northern valley) では、幹線道路は変化する。 I-81 はハリスバーグ (Harrisburg) から北東に向かって、スワタラ・ギャップ (Swatara Gap) まで峡谷をたどり、北に向きを変えてブルー・マウンテン (Blue Mountain) を横断し、峡谷を離れてスクラントン (Scranton) に向かう。次に I-78 は峡谷を平行に通り抜けるルートを継続し、ブルー・マウンテン (Blue Mountain) の南の斜面に並行して、ハリスバーグをレバノン、カッツタウン (Kutztown)、そしてアレンタウンに接続する。アレンタウンで I-78 は南に向きを変え、レディング・プロング (Reading Prong) の丘陵に入り、ニューヨーク市に向かう。アレンタウンからニュージャージー州とニューヨーク州南部へは、峡谷は州間道路でたどれないが、 I-80 と I-84 が長々と (そして斜めの角度で) 横断し、更にペンシルバニア州イーストン (Easton) とデラウェア・ウォーター・ギャップ (Delaware Water Gaps) の間でデラウェア川も横断する。

峡谷はニュージャージー州とニューヨーク州で北東から次第に北に曲がり、 I-87 はハドソン・ハイランズ (Hudson Highland) のすぐ向こうのニューバーグの近くで始まり、峡谷の全長の大半をカナダまで走り、ポキプシー (Poughkeepsie)、オールバニーそしてグレンズフォールズ (Glens Falls) を通過する。峡谷の東西区間 (east-west section) で、 I-90 はモホーク峡谷 (Mohawk Valley) をユーティカ (Utica) に向けて縦走する。グレンズフォールズ (Glens Falls) の北で、 I-87 はアディロンダック山地 (Adirondack Mountains) を通り抜けて峡谷の西を走る。もっとも、これはプラッツバーグ (Plattsburgh) の近くで降下して峡谷に戻る。カナダと米国の国境で、I-87 はオートルート 15 (Autoroute 15) となり、北に向かってモントリオール (Montreal) まで継続する。どの州間道路もジョージ湖の峡谷東部の起伏の多い区間を横断することも、農業的に豊かなシャンプレーン峡谷 (Champlain Valley) を通り抜けてバーモント州バーリントンに向けて北に走ることもない。

しかしながら、I-89 はカナダー米国の国境に向けて、シャンプレーン湖の東岸に沿ってバーリントン (Burlington) から北に向かい、峡谷の北端の広がりを通り抜ける。国境では I-89 はケベック州道 133 (Quebec Route 133) 且つ自動車ルート 35 (Autoroute 35) になり、リシュリュー川のルートを南部区間でたどり、ここでグレート・バレーはセント・ローレンス川の平原に消えうせて、モントリオールの東に至る。 (リシュリュー川は平原を横断して、北方に継続し、モントリオールの北東でセント・ローレンス川にそそぐ。)

グレート・バレーは、とりわけ南部 - 中間の部分は、地域内でアパラチアと呼ばれる。